風の通 り道
築33年、ビンテージとも呼べない中途半端に旧いマンションのリノベーション。
①[いかにもマンション]と感じる、重厚で無愛想な梁型
②丸いコーナーガードによる一世代前の雰囲気
③少しずつ通り芯がずれていることによる、不揃いの壁
初見で感じた表面的な課題は、至って特殊なものではなかった。
調査を進めていくにつれて、深い収納はカビており、RC造でありながら、下地に凄まじい蟻害が生じていることが判明した。床下にはピットが無く、解体で初めて「④湿気・蟻害対策」が1番重要な課題として浮上する形となった。
一方で、南に開口が連続しているプランには、当初より非常に高いポテンシャルを感じていた。これらを鑑み、「超低コスト」でありながら「明るくて風通しの良い暮らし」を目指し、計画を進めることとなった。
まず第一に解決すべきは、①の、シロアリでスカスカになったカビだらけの収納だった。子供が小さくて徐々に荷物が増えることにも考慮する必要があったが、収納を新設する費用もない。思い切って蟻害のある収納は下地から全て解体し、石膏ボードに棚受レールを仕込み、そこで完了とした。こどもの成長に従って荷物が増えたら、棚の増設をしていく格好だ。
リビングとダイニングは、間仕切りを撤去して一室に繋げ、天井は躯体現しにすることで、広々と開放的な空間とした。ドアを開ければ玄関から各部屋まで全ての空間に風が通り抜ける設えとすることで、湿気のたまらない空間になるように配慮した。
基本的に子供の安全に配慮し、家具の端部は角の取れた仕上としている。アールで繋げた③の不揃いの壁や、①のコーナーガード、これらを調和するために、子供部屋には象徴的なアーチの開口を設けることとした。
最後に、①の重い梁の印象を和らげるために、梁面に沿って幕を覆うことを考えた。野暮ったい収納とサッシを隠すことが目的だったが、思いの外、遮音性・断熱性の向上を体感した。
結果として、メーター80円の農業用不織布が、今回の主役となった。
丈夫でありながら非常に軽く、わずかな空気の動きにゆっくりと揺蕩い続けるため、子供がさっきまでどこに居たか良くわかるのが面白い。太陽光をいっぱいに拡散してくれて、日中は照明いらず。明るくて気持ちのいい空間に仕上げることができたと感じる。